ローマ・デッサン帳

ローマでの生活、見たことや感じたこと、絵本と美術関係の仕事について綴ります。

ミュンヘンその2 お城の中のミュンヘン国際児童図書館

ミュンヘンに行きたかった理由はたくさんありますが、その中の一つとして、あの伝説的な国際児童図書館を訪れてみたい、というのがありました。

この図書館は1949年に世界で初めて開館した、世界中の子どものための本を収集する国際児童図書館です。日本にも支部のある、世界の子どもたちの読書を推進する活動を行っている国際児童図書評議会、つまりIBBYを発足したドイツのジャーナリストのJELLA LEPMANが創立しました。日本の国立国会図書館国際子ども図書館のお手本にもなっている図書館です。

          

レップマンは、戦争で心が荒廃してしまったドイツの子どもたちに潤いを与えるのは本で、いろいろな国の本を読んだり見たりすることによって、世界の子どもたちが交流し続けることのできる、平和な社会を作る意志と意欲が生まれるのだと信じていました。

彼女は世界中の出版社に呼びかけ、子どもたちに本を寄付するうように依頼し、その結果、14か国から4000冊が届きました。1946年にこのコレクションは「国際児童文学展」という展覧会の形でミュンヘンの美術館で展示されました。この展覧会がきっかけとなって、アメリカの児童図書館をモデルに児童と青少年のための国際的な図書館を創立するアイディアが浮かんだといいます。

最初の図書館はミュンヘン市内にありました。

アメリカのマンガや外国の本が自由に読めるこの環境は子どもたちにとってのオアシスでした。この図書館は開館当時から、読書をしたり、本の貸し出しをするという単なる図書館なのではなく、読書サークルや作家と一緒に英語などの外国語を学ぶコース、絵画教室、先生たちのためのレクチャー、レップマンと仲の良かったケストナーによる演劇活動など、放課後に色々なアクティヴィティーのできる特別な場所ででした。

子どもの時に読んだ『スケートをはいた馬』もケストナーの作品です。あまりよく覚えていないので読み直してみたいと思いました。『どうぶつかいぎ』はケストナーとレップマンが思い描いた世界平和がそのまま絵本になっている作品です。彼が子どもたちとどんな演劇活動をしていたのか、とても興味があります。

             ケストナー 本の中古/未使用品 - メルカリ

ミュンヘン国立図書館は現在、ミュンヘン郊外の、おとぎ話に出て来るようなかわいいお城の中にあります。毎年世界中の出版社から寄付される蔵書数が膨大な量に達したので、1983年に移転することになったのです。

ブルーテンブルグ城に行くにはいくつか方法がありますが、私たちはS-BAHNの6番でPASINGという郊外のとても感性な住宅街が中心の地区まで行き、そこからバスに乗りました。乗客はみなとても親切で、降りるところを教えてもらいました。

    

         

        

お城への入り口は森に囲まれていました。小川にかかった橋を渡って周りが公園になっているお城のほうに向かいます。ヴルム川のほとりのブルーテンブルグ城は15世紀初頭にバイエルン公アルブレヒト3世が中世の城跡に建てた狩猟用の館です。4つの塔のある城壁に囲まれています。ゴシック様式のオリジナルな内装の残るチャペルには、3つの祭壇画があります。15世紀末のヤン・ポラックの傑作です。水の豊富な自然に囲まれた、おとぎ話の舞台のようなこの美しい環境は、まさに永遠に守っていくべき子どもの想像の世界を象徴しているかのようです。

図書館が移動するにあたり、お城の地下には巨大な収蔵庫が建設されました。

お城の中庭には芝生や木が植わり、真ん中の大きなテーブルでは図書館のスタッフがミーティングを行っていました。しばらくすると、そのうちの一人がこちらに走り寄ってきました。今日特別に案内してもらうように頼んだイタリア人のスタッフメンバーのヴァㇾリア・ジャクィントさんでした!

世界中から本が届くので、スタッフも世界中の人たちが色々な言語圏を担当しています。ヴァㇾリアさんはドイツ人と結婚してミュンヘンに住んでいて、図書館では主に中学生よりも上の学年の読書推進活動に従事しています。特に、本を読まないことで悪名高い職業学校の男子学生が彼女のターゲット!!大変だけれどとてもいい成果があり、彼女は大満足です。この図書館の中学生の読書サークルは彼女のおかげでイタリアのストレーガ文学賞児童部門の審査に毎年参加しています。ドイツではイタリアの作家のダヴィデ・モロジノットが大変人気があるのだそうです。モロジノットの作品は日本でも『ミシシッピ冒険記』が翻訳されています。彼女は移民の子どもたちとの活動にも興味を持ち、文字のない絵本を使ったワークショップを考案中とのこと。文字のない絵本に関しては、私自身もイタリアのIBBYの移民の子ども受け入れのためのサイレント・ブック・プロジェクトに少しだけ関わっているので、特に韓国の文字のない絵本の強烈な物語性について彼女に話しました。(本当にすごいです)

最初に見せてもらったのは、門から入って左側に入り口のある、国際児童図書館の「児童図書館」(開館時間 月ー金午後2時ー6時)。4歳以上の子供大人に現在開放されている国際児童図書館の読書室では現在、約3万冊が言語ごとにまとめられています。言語数はなんと20以上。基本的に貸出は、本が2部あるものだけだそうです。日本語コーナーももちろんあります!

図書館では現在、ローゼンハイム大学の建築学部の学生たちが、心地よい読書空間を室内に作り出すプロジェクトを展開中でした。この、隠れて本が読めそうな本棚階段も彼らの作品のうちの一つなのだそうです。

       

     

 

図書館では夏も子どもたちのワークショップが展開されていました。私たちが訪れた日にはお話を作ってそれを映画にするというワークショップが行われていました。

お城の中には4つの塔や長い廊下を利用して「秘密の部屋」がいくつかあります。中でもミヒャエル・エンデMichael Ende 1929-1995の書斎が再現されている、ミヒャエル・エンデ・ミュージアムはまるで時間がとまったような、不思議な空間でした。そこには彼の蔵書や手稿のほか、シュールレアリズムの画家であったお父さんの作品も飾ってありました。イタリアで収集された色々なオブジェも飾ってありました。二人目の奥さんが日本人であったことから、日本風の空間もありました。

下の写真はシュールレアリズムの画家であったお父さんが絵を描いてくれた家具です。お誕生日のプレゼントだったそうです。

            

 

もう一つの部屋は、児童文学の研究者たちがいつも調査に励んでいる閲覧室の上にある、絵本作家ビネッテ・シュレーダーBinette Schroeder   1939-2022の全作品の原画を収めた展示室です。ルネッサンスからバロック期に流行した「驚異の部屋」というプライヴェートな書斎に想をえた木造の空間で、イギリスの建築家、アンドリュー・ハウクロフトとシュレーダー自身がデザインしました。シュレーダーの作品に想を得た仕掛け付きの作品もも室内に組み込まれています。彼女の絵本コレクションは珍しい外国の絵本もあります。いつかここに戻ってきて彼女が大切にしていた絵本たちを読んでみたいです。下の写真は開くと動き出す仕掛け付きのオルゴール。

            

 

エーリヒ・ケストナーErich Kästner 1899-1974の部屋は、ブルーテンブルグ城の城門の塔にあります。各国語に翻訳されたケストナーの作品の初版本、60カ国語、500冊以上が所蔵されています。生前使用していた家具などが展示され、日当たりのよい読書室の形をとった心地の良い空間です。

                            Erich-Kästner-Zimmer - Internationale Jugendbibliothek           

残念ながら、ガラスの灯台のような展示ケースのあるジェームス・クルスの塔 James Krüss 1926-1997 を見る時間はありませんでした!次回是非観てみたいです。

この図書館のスタッフは国際的ですと最初に書きましたが、日本を25年間にわたり担当していたのはガンツェンミュラー文子さんという児童文学の研究者です。日本の児童文学の世界的普及に大変貢献してきました。幸い、ヴァㇾリアさんのおかげで彼女の後継者、中野玲奈さんに会うことができました!彼女は日本の出版社から届く本のカタログ化、それらの書評など随時執筆していてミュンヘン国際児童図書館のフェースブックのページに行くと、それらを読むこともできます。仕事部屋にもちょっとお邪魔しました。コロナウィルス感染症のため、一人一部屋があてがわれるようで、景色のよい素敵なお部屋でした。

そして本当にびっくりしたのは、イランの絵本作家で研究者のアリ・ブーサリさんにばったり会ったということ。彼に初めて出会った20年ほど前には、ボローニャのブックフェアにご自分で仕立てた刺しゅう入りのヴェルヴェットの長めの上着などを着て登場し、ペルシャの王子様のようでした。イランのイラストレーターを世界的にプロモートするための活動もずっと行ってきました。彼はミュンヘン国際児童図書館の研究者向けの奨学金を得ることができたので、現在図書館で『千一夜』の絵本、挿絵を研究中とのこと。地元の高校生と『千一夜』の主人公である『シエラザード』の音楽劇のプロジェクトにも関わり、先日コンサートが開催されたようです。

以下、図書館のフェースブックのページへのリンクを貼り付けておきます。

コンサートの写真なども掲載されています。

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翌日は玲奈さんとガンツミュラー文子さんといっしょに優雅なレーヘル地区で夕食をとりました。外で地中海風にアレンジしたドイツ料理をいただいたのですが、真夏だったためか、アブが多く、文子さんが刺されてるという事件も!

お城の話に戻りますが、お城には図書館のスタッフの昼食も用意してくれているとてもいいレストランがあり、そこでお昼を食べました。柔らかく煮た牛ひれ肉とアンズダケの付け合わせ、とてもおいしかったです。