ローマ・デッサン帳

ローマでの生活、見たことや感じたこと、絵本と美術関係の仕事について綴ります。

2012年ボローニャ国際絵本原画展審査終了!

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ボローニャブックフェアのほうでようやく今年の入選者のリストが
掲載されました。
今年はかなり厳しい審査でした。
入選者のみなさま、心からおめでとうございます。
http://www.bolognachildrensbookfair.com/mostraillustratori/selezionati

以下はローマに戻ってから書いた審査の報告文です。

今年も応募者は2600人を越え、このコンクールが
いかに世界中のイラストレータの人たちにとって
大切にされているのかが感じられる。
ので、審査員たちは毎年慎重な審査を展開し、
自分たちの見方が正しいのか、判断の基準が受け入れられるものなのだろうかと
絶えず自分自答を繰り返しながら作業を行っている。
今年はとくに、審査員によっては今までの自分の見方について
考え直すきっかけとなっていたようだ。
それは、5人5様、みんなそれぞれ観点が異なり、
お互いがどうしてある作品を選ぶのか、理解しようと努力することにより、
発生する気持ちでもある。
当たり前のことなのかもしれないが、
毎年このプロセスには驚かされ、感動させられる。

今年の審査員には荒井良二さんが参加!
彼の発する言葉はまるでこの長い、苦しいプロセスの道を
明るく照らす光のよう。
「審査するということは審査されるということ」。
だからって恐れることなない。
長年続いているコンペというものは、そのコンペのスタイルというものを
必然的に造り出し、
毎年それを見ていると、そういうものを描かないといけないのかなと
思ってしまう。
必要なのはしかし、それをよく見、それを打ち破り、
新しい道を示してくれるものを創造することだ。
もっともっとそんなものがあってもいい!

イギリスからはウォーカー・ブックスのヴェテランADリズ・ウッドが参加。
彼女は本当にイラストレータという職業を知り尽くし、
また、作品を見ながらどんなふうにしたらいいページができるのか、
エディターとしてたくさんコメントをしていたので、聞いていてとても楽しかった。
このイラストレーションはレセピーブックにぴったりね、など
応募された作品の中から彼女の企画のアイディアがぽんぽん飛び出す。
(すばらしいですよ、みなさん!!)
入選はできなかったけれど、仕事をいっしょにしたいから
この作家には自分から連絡するわ、と若い作家をしっかり発掘していた。
また、子どもたちが(・・・または親が)
どんなものを見たら喜ぶのかさすがによく心得ていた。
作品のディテールのなかからユーモラスな部分を取り出し、とても
楽しく審査していた。

フランスからは国立図書館,児童文学部門La joie par les livresの
アンヌ=ロール・コニェが参加。
昨年のソフィーに続き、彼女も児童文学の専門家だ。
ヨーロッパの絵本に対する知識が実に豊富で
しかも5枚のイラストの物語性や一貫性というのをとても大事にしていた。
まだ知られていないアーティスト、見たことのないスタイル、
語りかけてくる絵の力・・・。
自分の仕事にとって今回の経験がいかに刺激的だったか、
また自分の今までの司書としての「選び方」がこれから変わるだろうとも
述べていたのが印象的だった。

ポーランドからはヴィトフルニアのマグダレナ・コアス。
http://www.wytwornia.com/
かつては広告業界にいた、とっても素敵な女性編集者だ。
数年前に自分の出版社を設立し、グラフィック的にも斬新な絵本を出版。
ユダヤ系ポーランド人のユリアン・トゥヴィム
Julian Tuwim(1894 – 1953)の子どものための詩集の絵本は
ボローニャ児童図書ブックフェアでラガッツィ賞を受賞し、
そのイタリア語版がオレッキオ・アチェルボ出版から刊行された。
マグダレーナは非常に斬新なテーストを持ちながらも、
よく描かれたノスタルジックな作品にも注目していた。

イタリアからはヴェネツィア出身のローマ在住の絵本作家
キアーラ・カッレールが参加!
彼女は銅版画も制作しているので、荒井さんと共に
プリントを使用した作品を非常に丁寧に見ていたのですばらしかった。
イラストレーションの先生もしていて
イタリアの若いイラストレータたちにとってはカリスマ的な存在の彼女。
5枚の原画のかもしだすストーリー性、物語のダイナミズムに
注目し、5枚からしっかり流れが読み取れるかどうか、
また一貫性を持っているかどうかなどに注意していた。
彼女はその制作活動において色々なスタイルやテクニックを
試しているので、
一つ一つに作品に対するコメントも興味深かった。

と、今年もまたとても刺激的な審査となり、
撮影する側としてもとても勉強になった。
絵本や子どもの為の本について日々考えている人たちは
毎日の肯定的で、何か新しいものの生まれる可能性のあるものを探す名人たちだ。
しかし荒井さんやリズが言うように新しいものは無から生まれるのではなく
昔をふまえてうえでやっと出てくるものだ。
今年もまた色々な大切な言葉を胸に、一年を開始する。