ローマ・デッサン帳

ローマでの生活、見たことや感じたこと、絵本と美術関係の仕事について綴ります。

ルクレツィアあれこれ

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昨夜観に行ったイタリア人俳優、ヘルリツカの一芝居に出てきた
女優さんの、顔全体にかかる豪華なカーリーヘアを見て思い出したのが
高校のときの友人とともに「ラーメンヘアのルクレツィア」と
呼んでいたこのフローラ(花の女神)の肖像。

長い間法王アレクサンデル6世の娘であった
ルクレツィアの肖像画だと考えられていて、
伝記の表紙にも採用されていたりします。
ルクレツィアに関する情報はほどんどなく、
100%はっきり彼女のものであると分かっている肖像画は
フェラーラのエステ公と結婚したときに鋳造されたメダルの
横顔のみだということなのですが
巻き毛の金髪だった、というふうに伝わっています。

ラーメン、つまりパスタ、というのはイメージとして
イタリア人にも共有されたのだなああと、
ボローニャについて調べているときに思いました。
1931年にマイヤーニというボローニャの詩人は
イタリアのタリアテッレという細長いリポン状のパスタは
ボローニャのベンティヴォリオ家の宮廷を訪れた
ルクレツィアの巻き毛に感激した宮廷のシェフが
作り出したのだ、と言う物語を作りました。
この話しはあたかも昔からの伝説のように現在思われています。

ブロンドで巻き毛であったという話しの起源はどうやら
アンブロジアーナ絵画館にある、
ルクレツィアの髪の毛ではないかとされている細い金髪の髪の束。
この髪の束はルクレツィアがその愛人なのではと囁かれていた
人文学者、ピエトロ・ベンボに宛てた9通の手紙の間二入っていたと、
1685年に編纂されたアンブロジアーナの目録に記載されています。

この髪の毛はバイロンやダヌンツィオなど
多くの文人にとっては、崇拝の対象。
1928年に特別に作られた展示用の入れ物の中に納められました。
この容器はまるで聖人の聖遺骸用のものと同じです。
以下のサイトの、下の方にある2枚目の写真がそれです。

何年か前にオーストラリアの絵画館にて
フェラーラの宮廷にて同時代活躍していたドッソ・ドッシの
貴人の肖像(性別不明)がルクレツィアのものではないかと発表されました。
図像学的な解釈からすれば、「短剣」は短剣で自殺を遂げた
古代ローマのルクテティアを指しているので
この女性がそれと同じ名前であるかもしれないというのは
たしかに頷けます。
また、背景にあるフトモモがヴィーナスを象徴する植物なので
男性ではなく、女性なのではと。
フェラーラの古文書館でエステ公爵家の会計書類などをひっくりかえぜば
肖像画発注の書類や記録、
画家のドッシとの契約書などがもしかしたら出てくるかもしれませんが、
そういうものに行き当たったと報告する研究者も
今のところいないようです。
こちらの肖像画、今まで作り上げられて来たルクレツィア像とは
ちょっと違います。
その謎めいた視線は、私たちを捕らえて離しません。


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