ローマ・デッサン帳

ローマでの生活、見たことや感じたこと、絵本と美術関係の仕事について綴ります。

2008年 1月21日 国際絵本原画展審査報告

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先週木曜にボローニャから戻って来ました。
今回の審査もまた、全然違う雰囲気のものでした。
審査員の全員が、まずは長年のキャリアによって磨き上げられた
直感を基準に審査に挑みました。

ハンブルグ造形大学のシュトイエ先生の後任、ムルク=タッセル先生は
ご自身も絵本のイラストレーションをなさっているプロなのですが、
2000年から油絵科の先生となり、2005年からイラストレーション学科のフィクション・コースを担当。
ご自身の学生も多数参加していましたが、
本当に作品一つ一つを丁寧に見ていました。
若い作家の可能性というものをとても大切にしていました。
そしてフランスの編集者ティエリ・マニエ!
ティエリさんのお作りになる本はとても斬新なスタイルのものが多いですが
子どもの視点を大切にしています。
(息子の大好きな本は工事現場の写真の間違え探し絵本
Chantiers en cours!
ゴミのトラックの中に捨てられてしまう
おさるさんのぬいぐるみの冒険の絵本も
とてもよく売れているとのこと。)
ティエリさんはイラストレーションの持つ
「語りかける力」に注目していました。
彼はアクト・スッド、ティエリ・マニエおよびルーエルグの3つの
出版社の編集者として活躍する凄腕の編集者。
とっても楽しんで審査していました。
(タバコを4日前にやめたので、苦しいいいいいと言いながらも)
『バックミラー』という題名の本を今執筆中とのこと。
ブラティスラヴァの隔年の展覧会を全体のオーガナイズをしている
バルバラ・ブラトヴァさん(しまった、お名前の正確な発音を
確認するのを忘れてしまった!)は
イラストレーションの歴史がご専門の美術史家。
とても広い視野をもっていらして、展覧会としてのパランスというものを
とても大切にしていました。
そして福音館の編集者、唐亜明さん。
審査員の中で、子どもにとっておもしろいかどうかということを
一番考えて審査をしていました。
唐さんのお父さんは「聖書よりも発行部数の多い」
あの赤い『毛沢東語録』の編集者。
ご自身は紅衛兵として文化大革命に参加。・・
福音館に見出され、日本初の外国人編集者として起用されました。
唐さんは深くて広い海のような人・・・・
びっくり箱のように、いろいろなおもしろいお話、
考えさせられるフレーズが次から次へと
飛び出して来ます。
ファビアン・ネグリンさんは国際絵本原画展に入選することによって
児童図書の世界に入っていたアーティスト。
アルゼンチン出身ですが長い間イタリアにすんでいます。
オレッキオ・アチェルボ出版で彼の多彩な作品を見ましたが
本当に幅の広い作家です。
特定のスタイルにこだわらないのが彼のスタイル。
彼は作品の中に特におもしろみを見いだしていました。
絵としての完成度にはとくに厳しかったかも。
(特技は目を鳴らすこと?!撮影中にもやってみせてくれました!)

審査ではホットな議論がかわされることにあるのですが
今回のみなさんはどちらかというとクール。
毎年送られてくる作品には傾向があったり、
作品全体の質がよくなったり悪くなったり、いろいろです。
中国には本当にたくさんのイラストレーターがいると
唐さんが話していたのですが
中国からの参加はとても少数でした。
(いいプロモートの方法を考えたほうがですね。)
アメリカにもおもしろい作家がたくさんいるのに
やはりアメリカのアーティストはヨーロッパの市場には
あまり興味をもっていず、自己完結しているところがあるようです。
イタリアに続いてやはり日本からの参加がとっても多いのですが
新人のアーティストたちが中心。
最近ではこの原画展を通して外国でデビューする作家が増えてきました。

昨年の審査員の駒形さんがおっしゃっていましたが
今年の応募作品も全体的に「平面的な」感じがしたかも。
デヴィット・マッキーさんの求めていた
「命がけ」の作品もすくなかったかも。
(若者はファッションや音楽では斬新なのに
どうしてイラストの世界ではそうじゃあないんだろうなあと
おっしゃっていたのですが、
絵本の世界には歴史的な伝統の要素、その踏襲も大切ですね。)
三月末のボローニャでの展示でまたじっくり作品を見てみたいと思います。