ローマ・デッサン帳

ローマでの生活、見たことや感じたこと、絵本と美術関係の仕事について綴ります。

2008年 4月17日 ザ・ムナーリ・コレクターズ

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*写真はトリノに向かう車窓から臨んだ水田。『苦い米』の舞台だ。

今年はボローニャのフックフェアをはさんで
何と合計3人のムナーリ関係のコレクターたちを訪問。

まずはバッコリ氏のバッコリ・コレクション。
アルト・アーディジェ州のカヴァレーゼという街の
現代美術センターにその一部が昨年まで展示してあった。
しかしいろいろと状況が厳しく、結局センターからは作品を引き上げ、
現在はイタリア国内にて買い手を探しているとのこと。
われわれにとっては「幻の」コレクションだったのだが
今回はじめて見せていただいて、ムナーリの絵本が
いかに「読めない本」とつながっているかがよく分かった。
バッコリさんは実は医者さん。
しかし若い頃に後期未来派の作家たちと交流があり、その中で
ムナーリに一番心惹かれ、30年間ムナーリのもとに通い、
コレクションを広げて行った。
ムナーリと話し合って、とくに本作りのプロセスに関係する作品を
集めていくことにしたという。
23冊の本に関しほぼ完全な形で、本たちができあがるまでの
経過の分かるスケッチやダミー本が全部そろっている。
ムナーリがいつも仕事で持ち歩いていた
タイポグラフィーの見本帳まであったのには驚いた!
バッコリ氏のコレクションはムナーリの本だけでなく、
偏光板を使って鑑賞する作品や旅行用彫刻なども含み、
ヴェロネージやデ=ペーロなどの作品も入っている。
びっくりするほど詳細な作品のカタログ化も
氏自身の手により成されている。
コレクションのすばらしさに酔いしれながら
バッコリ夫妻と過ごした楽しい晩・・・
ムナーリの作ってくれたすばらしい出会いだ。

コレクターズ第2弾は現在立ち上げ中の「国際未来派研究所」のベッローリさん。
ご自身はミラノのポリテクニコの視覚伝達デザインの先生でもある。
コレクションの中核を成しているのはpoesia visivaの詩人でもあった
美術批評家、ベッローリさんのお父さんだったカルロの集めた作品群。
研究所は静かな広場の一角にあり、外側の壁が
きれいな藤色に塗られていた。
(夜中にこっそり塗ったのだそうだ。)
研究所の研究員はみな黒装束。
トリノからやってきた(実は第3弾に当たる)コレクターのマッフェイさんは
そのしきたりのようなものを知っていたとみえて
ネクタイまで黒で決めて来ていた。
(その日はからし色と四旬節じみた濃い紫色を着ていた私は
場違い感に悩んでしまった。
相棒たちはたまたま黒っぽいのを着ていたのでほっとしていた。)
ここでは見たことのない珍しい「読めない本」を見せてもらった。
研究所は来年の未来派宣言100年記念のために
さまざまな展覧会も企画している。
これからいっしょに何か仕事ができるかもしれない。

トリノ・・・
この街には10年以上前にビエンナーレを見に
ミラノから訪れたことがあったが、美しく生まれ変わっていた。
厳かな雰囲気の漂う立派な宮殿が並び、パリを思わせる屋根裏の窓たち。
相棒と堪能したバラッティのチョコレートケーキは
パリの洗練されたこってり感とイタリアに特有な手作り感がうまく融合し、
これこそがトリノの真髄だ、と、感動・・・
車産業の盛んな街であるにもかかわらず、
中心街には歩行者専用の道が多く、
遠足に来ていた小学生たちが楽しそうに手をつないで歩く。
ローマのこどもたちに比べると随分落ち着いていてお行儀もよく、
高校生たちも利発そうな顔をしていた。
ローマでいかに神経を逆立てて生活しているかがよく分かった。
ボローニャやトリノのような中規模の街にくると、
肩の力が抜け、足取りも軽やかになるのだ・・・
ムナーリの本のコレクターである書籍研究家のマッフェイさんはもともとは建築家。
17世紀の建物のにあるご自宅のインテリアがすてきだった。
マッフェイさんはムナーリの関わった書籍のカタログを編纂。
今回の展覧会を組み立てたりカタログの作品解説を書くのに
随分お世話になった本だ。
トリノは毎年5月ごろに開かれるブックフェアでも有名だ。
そんな環境であるからこそ、マッフェイさんのような人もいるのだろう。
街中を歩いていてもいろいろな分野の古本屋さんが見られた。

ムナーリ巡礼の旅を終え、帰りは7時間電車に揺られててローマに帰還。
ティレニア海に沿って驚きを与え続けてくれるこの美しい半島を一気に南下。
「コレクション」するという行為・・・
これについてももう少し考えてみたいと思わせる旅でもあった。