ローマ・デッサン帳

ローマでの生活、見たことや感じたこと、絵本と美術関係の仕事について綴ります。

2009年 偉大なるロベルト・インノチェンティ Il grande Roberto Innocenti

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*写真は『白ばらはどこに』より。
白ばらの赤いリボンとナチの赤い腕章との間のコントラストが
恐ろしいです。
白ばらはその殉教の朝にはりぼんをしていません。
真っ白な服をまとっています。
*ロベルトのイラストレーションで面白いなと思うのは
「視点」。宙づりになっているような感覚を覚えます。
写真は色々な小説の主人公たちに出会える
『ラスト・リゾート』より。
未来派の飛行画家たちや新聞のイラストレータでもあった
ヴァルテル・モリーノの視点を彷彿とさせます。

今回の日本帰国中には、
ANDERSEN賞の画家賞を受賞したインノチェンティについて、
末盛ブックスの末盛さんとともに
対談する機会を与えられたのですが、
おかげさまでロベルトの偉大さを
改めて実感することができました。
戦争をテーマとした絵本は
第2次世界大戦を垣間見た世代に属する者としての、
「記憶を伝える」という使命感にあふれたもの。
戦車に乗せられてどこかへつれていかれる家族。
母親の抱えていたピンクの毛布につつまれた赤ちゃんは
どうなってしまったのだろう。
少年の面影を残した金髪の若いドイツ兵を
地下室にかくまっていたおばさん。
成長してから、近所の人にレジスタンスに参加していた人たちが
実はたくさんいたことを知ったというはなし。

イタリアの児童文学では戦争についてはあまり語られません。
特に絵本に関しては、戦争や死を取り上げたものは
「暴力的な」ものだとみなされています。
そのためにロベルトの『白バラはどこに』の出版は
数多くのイタリアの出版社に持ちこんだにもかかわらずことごとく断られ、
結局のところ、アメリカの編集者、トム・ピーターソンとの出会いを
待たねばなりませんでした。
イタリアの出版社には「これは子供向けのものではない」と
言われたのだそうです。
しかし息子が4歳ぐらいの時、私は何度も「白バラ」を読んで、と
頼まれました。
小さいなりに、何かとてつもないものを感じ取っていたようで、
何度も読めば、きっと最後には白バラが無事に家に帰れるのだと
思っていたようです。
この本を読むたびに私は泣いてしまうのでつらかったのですが・・・。
この絵本は子供の視点から描かれています。
白バラの目を通して私たちはあの時代に踏み入るのです。
イタリアの児童文学史ではカルヴィーノの『くもの巣の小道』が
青少年向けの戦争文学の傑作として高く評価されていますが、
ロベルトの『白バラはどこに』と『エリカのはなし』は
それに次ぐものではないだろうかとも思います。
ロベルトは自分がアーティストではなく社会的責任を持ったイラストレータだと
言っています。また、アート(芸術)よりはアルティジャナート(工芸)に自分は
近いのだとおっしゃっています。
イラストレータが職業として確立するのは20世紀の初頭です。
従軍画家や新聞で取り上げられる事件を描く画家たちがいましたが、
彼らは自分たちのことをイラストレータなのだと自称し始めました。
イラストレータとは、人々にある出来事の衝撃と臨場感を伝えるのが
仕事で、歴史的な事件であれば時代公証を行い、その場面のこまごまとした
再構築を行います。
ロベルトもこのイラストレーションの歴史の流れに属していると言えるでしょう。

ロベルトは子供たち、そして大人たちのために
イメージを読み取る能力の刺激を考えて描いています。
見れば見るほどいろいろな発見のできる作品ばかりです。
国際絵本原画展、まだ日本を巡回中ですが、
ぜひぜひロベルトのすばらしい作品を見てみてください。