ローマ・デッサン帳

ローマでの生活、見たことや感じたこと、絵本と美術関係の仕事について綴ります。

魂を揺さぶる声 平山美智


2011年3月10日、つまり震災の前夜、ということになる。
イタリア前衛音楽の作曲家、
ジャチント・シェルシGiacinto Scelsi(1905/1988)の声楽曲の
ミューズであったMichiko Hirayamaのコンファレンスを、
貴族の血筋を引くシェルシの自宅を改造した
シェルシ・ファウンデーションまで聴きに行った。
シェルシの館はフォロ・ロマーノやパラティーノの丘に囲まれた
美しい、古代ローマと中世期にさかのぼる地区のただ中にある。
そのシェルシの住まいであった4階は現在記念博物館になっている。

1953年にイタリアにやってきた平山美知子。
聖チェチリア音楽院に入学し、まだ若いイタリアの作曲家たちと交流。
しかし、みなに、シェルシはただの変人で、作曲をちゃんと勉強したことのない奴
だから、近づくなと言われたらしい。
友人がしかし、たまたまシェルシの住まいの下の方の階に住んでいて、
いつも夕食をごちそうになっていたらしい。
日本歌曲を歌う美智子さんの「声」に心打たれて
シェルシの運転手は美智子さんに
H?,Cinque melodie per soprano solo という曲の譜面を届けた。
夜中の11時から朝の4時まで毎晩不思議な音楽を奏でるシェルシ。
こんなに音楽を必要としている人がただの変人であるはずがないと思い、
美智子さんは夕食をごちそうになったあと、
バンと建物の扉を閉じる音を立てたあと、
扉を開けて上のほうに住むシェルシの家の扉の前にうずくまり、
朝まで盗み聞きをした。
次の時は毛布を持って扉の前にうずくまる。
3回続けて聞き、これはただ者ではないと確信。
譜面を再び開けてみると、今まで意味をなさなかった羅列に突然息吹が・・・。
こうして始まったお二人のコラボレーション。
美智子さんの声は、生命の生成の声。
洗練されていると同時に原始的、
こんなに美しく、力強い前衛音楽を今まで聞いた事がなかった。

シェルシの音楽は、マイクロトーン、西洋の音階の音と音の間の無限をさぐること。
オーケストラの曲に、一つの音がベースになっている作品がある。
また、水平に進んで行く音楽ではなく、垂直にうごく音楽。
『山羊座の歌』。
YOUTubeにもあったので、ここにリンクをはっておく。
http://www.youtube.com/watch?v=j9CW6mbD46E