ローマ・デッサン帳

ローマでの生活、見たことや感じたこと、絵本と美術関係の仕事について綴ります。

ボローニャ少年院 駒形克己氏タクタイル・ワークショップ



ボローニャブックフェア後、再び少年院を訪れ、
アシスタント兼通訳として駒形克己さんのワークショップのお手伝いをした。
今回の少年たちは4人、チュニジア、モロッコ出身のモデナの少年、
そしてガオ君という中国人の少年。
少年院新館のほうの工事がようやく終わりに近づき、
今まで元修道院の建物の中に集中していて暗く重々しい雰囲気だったのが
ぐっと明るくなった。
最初に訪れた時は少し怖かったが
2回目から怖いという感覚はなくなった。
それにしても、天井まで続く黒い格子はなんとも痛々しく、
がしゃんと閉まる音がいつまでも心に響く。
授業の形式が変わって少年たちが自分の事を話すという時間が
以前と比べるとあまりないのだが、
一人一人がどんな少年なのかその笑いや仕草からほんのすこしみてとれる。
その中でむっつりしたガオくんはずっと下を向いていて、いっさい笑わない。
しかし駒形さんの説明に「わかりました」と日本語で答えたのには
びっくりした。

今回の駒形さんのワークショップはアイマスクをした、触覚によるもの。
「見えない人の立場にたって」がテーマだ。
丁寧なイントロダクションのあと、本番。
アイマスクをしているので、一つ一つの指令に少年たちは集中し、
ゆっくりとはさみをチョキン。
素敵な紙の彫刻の制作だ。

最後のクライマックスによるメッセージは
偏見からの解放の可能性。
イメージしたものと実際のものはもしかしたらぜんぜんちがうかもしれない・・・
それに一生気がつかないで過ごしてしまうかもしれない。
希望の裏の絶望、絶望の裏の希望。
駒形さんの、少年たちに最後に送る言葉は、
「見えない人の気持ちも考えてあげてね。」

今回のこのワークショップでは
みなアイマスクをしているので、誘導をするときに
身体や手に触れる事が多く、
触れ方によって伝わる感情についても考えさせられた。
彼らが完全に私たちに頼り切っていたのを肌で感じ、
心を揺さぶられた。

作業が終わり、みなでクッキーとファンタをいただいている間、
(少年たちにもすすめられて食べました)
ガオくんが突然立ち上がり、机の向こう側にすわっていた、
駒形さんの日本人アシスタントの女性に自分のアイポッドの
イヤホンを一つわたし、音楽を聞くよう、勧めた。
聞こえてきたのは日本のポプップスだったので、びっくりする彼女。
二人が共有した時間、ぽかぽかの日差し、
びっくりするかたわら、にやにやする他の少年たち。
嬉しそうに目を細める駒形さん。

少年院の院長さんは3人の子どものお母さん。
とても素敵な方だ。
日本の事をとても心配している。
今回のクラスの少年たちは特に言う事をきかないので
授業も普段は大変なのだと説明してくれた。
特に中国系の少年たちはとても頭がいいのに
まったく他の少年たちと溶け込まない傾向があるのだと。
「彼らはどうやって開いたらいいのかわからない花のよう」。
子どもたちを花にたとえる所長さん。
すばらしい。

駒形さんのボローニャでの少年院の活動がきっかけとなって、
ボローニャ大学財団のエレナ・パソーリ女史により、
ボローニャ大学にて、全国初の
少年院で教える先生たちのための専門講座が本日開講の運びとなった。
エレナの咲かせた一つの花。

このワークショップの後、ガオくんとラシッドくんが感想を書いた。
ワークショップの作業で生成されたたくさんの紙の彫刻の
写真をみなで撮影し、それをコラージュ。
そのうえにちりばめられる宝石のような、優しさのこもった彼らの言葉。

「駒形氏は50歳。髪の毛は黒いけど、中には白髪もまじっている。
目は茶色で、しわが少しある。とても学のある人に思えた」
「駒形さんはぼくたちにとっても優しかった」
「駒形さんはぼくたちの目を閉じる為にアイマスクを渡した。
そのあと、紙とはさみを渡された。」
「そのあと紙と遊び、とても楽しかった。
そしておやつを食べて別れの挨拶をかわした。」

彼らにとって、多分一生忘れられない一日。
駒形さん、ありがとう。