ローマ・デッサン帳

ローマでの生活、見たことや感じたこと、絵本と美術関係の仕事について綴ります。

「テヴェレ川の詩」 有島生馬『蝙蝠の如く』 Poesie sul Tevere: "Come un pipistrello" di Ikuma Arishima

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4月21日午前中、ローマの創立2764周年記念の日に
テヴェレ川の中州、ティベリーナ島前の川岸にて
『テヴェレ川の詩』という、テヴェレ川にまつわる詩や
文学作品のパネルのシリーズ大4弾設置の記念セレモニーが開催された。
今回は11人の作家の作品のパネルが、
テヴェレ川の川岸に設置されることになっている。
これでパネルの数は72にも及ぶことになる。
テヴェレ川岸を散歩したり、サイクリングをしながら、
世界の色々な作家たちの、
テヴェレ川を題材とした作品を楽しめる。
川の流れ,時間の流れ、思考の流れ。

セレモニー用には仮説のパネルが、
ティベリーナ島にいたる、チェスティオ橋の階段を降りたところに飾られた。
Calata degli Anguillaraという、フェリーの発着駅にもなっているところだ。
(強化ガラスに入った実際のパネルが設置されるまでは
この仮のパネルによってこれらの詩作品を楽しめる。)
今回のシリーズには、日本からの参加もある。
有島生馬、『蝙蝠の如く』。
数奇の運命を経た主人公の日本人青年がテヴェレ川を渡ることにより、
一人の大人の人間として再び世に生み出される感覚を味わう場面。
この作品は有島生馬の1905年からのローマ留学時代の
実際の体験が素材として用いられている。
ローマの公爵夫人に救われた日本人の青年画家も
実在した青年がモデルとなっている。
おそらく、その公爵夫人の名も調べれば分かるのだと思う。
有島生馬の、ヨ-ロッパを題材とした短編小説は
実際の体験が色々なところで埋め込まれていて、
どこまでがフィクションで、どこまでがノンフィクションなのか
分からないところがある。
いずれにしろ、『美少年』、『新しき古羅馬人』、『イエッタトリーチェ』などは
非常に魅力的な作品だ。
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さて、セレモニーの記述に戻ると・・・
パネルのテキストは原語対訳版。
日本語でもちゃんと読めるようになっている。
翻訳はこのテヴェレ川にまつわる文芸作品パネル設置を企画した
ベッティーニ教授との共訳だ。
今回の作品の他の作家は以下の通り。
ストラボン(ギリシャ系古代ローマ人)
聖アゴスティヌス(アフリカ出身)
ジオフリー・オヴ・マンモス(中世イギリス)
G. G. ベッリ(ローマの詩人)
G. カルドゥッチ(イタリア)
E.パウンド(イギリス)
C.メイレレス(ブラジル)
R. アウスレンダー(ドイツ)
I.ブロツキー(ユダヤ系ロシア人)
F.グレゴロヴィヴス(ドイツ)
ローマ市の文化担当官やラツィオ州の環境担当官らのスピーチ、
ベッティーニ教授によるこの企画の紹介のあと、
二人の女優により、イタリア語訳のテキストが朗読された。
最後に、セレモニーに出席していたローマ在住の詩人たちが
ローマを題材とした詩作品を披露してくれた。

文化に対し、どんどん予算が削減されていくなか、
ローマ市のどまんなかの、テイベリーナ島の前にて、
ローマの誕生日の日に、
美しい春の朝のまばゆい光の中
テヴェレを語る色々な歴史の時代の作品たちを鑑賞するなんて
なんという肥沃な時間だったのだろう。

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川の中州の島の病院の産院「イル・フォコラーレ」(暖炉)は有名だ。
新しいローマ人が平均して毎日10人は生まれるところだ。
息子も川のどまんなかで生まれたことになるのだが
夜が深まり、テヴェレ川の土手の上を走る車の音が減って行くにつれ
川の流れの音がごおおお、とどんどん大きくなるのを聞いた。

これからどんな人間が生まれ、どんな作品が生み出されて行くのだろう。