ローマ・デッサン帳

ローマでの生活、見たことや感じたこと、絵本と美術関係の仕事について綴ります。

移民をテーマにした最新イタリア映画 Io sono Li/ Terraferma

IO SONO LI
『私はリー』
監督:アンドレア・セグレ
上映時間: 100分
制作年度: イタリア、フランス 2011年制作
2011年第68回ヴェネツィア映画祭参加作品

http://www.youtube.com/watch?v=fB6aNVyLqx8



ローマから霧に包まれたポー川河口付近の海辺の街、キオッジャにやってきたリー。
中国からイタリアに労働者として移民するため、移民斡旋業者に対して多大な借金を抱えている。
故郷の父親の元に置いて来た8歳の息子との再会を果たすためには
組織の上の者たちの言いなりになって働かなくてはならない。
イタリア語もあまり話させない状態のまま、キオッジャの港にある
小さな食堂の店員として派遣される。
そこで出会った「詩人」、旧ユーゴスラヴィア出身の老いた漁師、「詩人」のベペ。
二人の間の心の交流。
入水自殺をしたと言われる愛国詩人、屈原を毎年祭る漁師の街からやって来たリー。
詩人のベペは彼女の語る故郷の話に魅了され、
リーもキオッジャを取り巻く海に心のよりどころを求める。

セグレはドキュメンタリー作家として活躍。はじめての本格的な映画作品だ。
最近のイタリア映画ではあまりみられない詩的なリアリズムにあふれている。
ロケ地に選ばれている食堂やアパート、ペペの海上の小屋。
ヴェネツィアのように「アクア・アルタ」になっても
平常通り、水浸しの中を仕事にでかけたり、バールでコーヒーを飲む人々。
バールにたむろす老漁師たち。
ヴェネト方言でしゃべるので、イタリア人向けの上映であるにもかかわらず、
ちゃんと字幕がついていた。

リーが屈原のものと思われる詩を、寂れたラグーナの風景をバックに朗読。
中国語の語感の美しさも非常に丁寧に描かれていた。

あまりおセンチにならずに感動を生む、無言の場面。(しかも、リズム、タイムも的確。)
ついつい説明的になってしまう言葉中心の脚本ではなく、
監督のダイレクションの巧さによってかもしだされる心のひだ。
ほめ過ぎと言われるかもしれないのだが、ひさびさの名作ではないだろうか。

今年は移民関係の映画が多いのだが、
最優秀外国映画としてイタリアからのノミネートされている
クリアレーゼの『テッラ・フェルマ』に比べると地味な仕上がりなのだが、
より繊細な作品だと言えよう。

TERRAFERMA 『テッラ・フェルマ』(本土)
監督:エマヌエーレ・クリアレーゼ
上映時間:88分
制作:イタリア2011年

http://www.youtube.com/watch?v=834BqSkTy_c


『テッラフェルマ』は移民問題を前にも取り上げたクリアレーゼの作品。
カメラワークもすばらしく、ダイナミックで美しい作品だ。

シチリアの小さな漁師の島に流れ着いた密入国者たち。
老年の漁師、フィリッポは溺れかけた妊婦とその息子を救い、
二人をかくまうことにした。
(この作品にも老人の漁師が登場する。)
新しい法律は海で見つけた不法入国者の救助を勝手に行ってはならないと言う
非人道的なもので、古来からの「海の掟」に反するもの。
海辺で死にそうになっている不法移民を発見したらあなたはどうするか。
救助せずに警察に知らせる?

海辺にたくさんの密入国者たちが流れ着き、
ヴァカンス中のイタリア人たちが彼らを介抱する映像や写真がこの夏、
たくさん見られたのだが、その場面がこの映画の中で美しく再現されている。

一人の「人間」として成長していく、老いた漁師の孫。
孫のお母さんと黒人女性との間の心の交流。
漁業で生きていけなくなり、観光業によってどんどん変わって行く島の生活。
この悪化して行く事態に人間としての尊厳を失わすにどう向き合って行くのか。
それを考える時が来ているのだということをこの映画は教えてくれている。
漁師役はシチリアの有名なマリオネット使い、ミンモ・クッティッキオ。
厚みのある人物像を描き出していた。