ローマ・デッサン帳

ローマでの生活、見たことや感じたこと、絵本と美術関係の仕事について綴ります。

第35回サルメデ国際絵本原画フェスティヴァルImmagine della Fantasia インマージネ・デッラ・ファンタジーアその2

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日伊国交樹立150周年を記念した「にほんのえほん」Visually Speaking展は、ローマ日本大使館、JBBYによる50冊あまりの日本の絵本の展覧会です。日本語が読めなくても、本をめくることによってお話が「読める」というアイディアをベースにセレクトされた、過去5年間に出版された絵本たちです。オープニングでもたくさんの親子たちが絵本を楽しんでいました。
手描きのポスターは、駒形克己さんのデサインしたロゴに想を得たのだよしこさんの作品です。

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絵本を一冊ずつ丁寧にみている人。田島征三さんの『かとりせんこう』がとても気になっていました。おもしろい絵本ですよねえ。

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展覧会の会期中、およびその前後にには、ザブレルの始めたイラストレーションに関する様々な講座がイラストレーターや絵本作家を目指す人たちのために開催されます。芭蕉と一茶の俳句をベースに一枚のイラストレーションを仕上げる講座参加者の作品の展示されているセクションもありました。

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昨年はチリがテーマ国で、チリの珍しい動物たちの絵合わせメモリーゲームのカードが作成されましたが、今年は日本ということで、何と妖怪がテーマに選ばれました。イタリアの子どもたちの間ではポケモン、遊戯王、妖怪ウォッチなどが浸透しているので、大人には分からなくても、子どもにはすぐに妖怪がどういう意味なのか、分かります。ポケットモンスターのベースには妖怪がいたのだと、おかげさまで初めて意識することができました。さすがモニかさんです!(3人の素晴らしいお子様も、とても日本に詳しいです。)こちら、むらかみひとみさんのバクと鬼、田中清代さんの河童と子哭き爺、コチミさんののっぺらぼうと轆轤首です。カードの裏にある雲の文様は、日本の図案集を多く参照の上、ELSEシルクスクリーン出版工房のルーカさんがデザインしました。もう一つ、別ヴァージョンがあったのですが、拙者息子やモニカさんたちの子どもたちも加わった多数決により、こちらに決定。

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続いて釣谷幸輝さんの雪女に天狗、山本久美子さんのダイダラボッチと座敷童、降矢ななさんの狐火と提灯小僧です。一枚にはひらがなの日本語で、もう一枚はローマ字で表記されています。見比べることにより、ちょっとひらがなの学習もできるので、子どものための日本語講座にも使いたいと思います。2色の印刷となっていますが、色の組合わせを決めるのに随分とみんなで悩みました。

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ブックショップには展示してある絵本のうちの何冊かが手に入ります。フィリップさんの絵本もぞくぞくと入って来ていました。妖怪メモリーカードには各作家と妖怪を紹介する妖怪の手引書がついています。平積みになっているのは日本民話集の絵本です。このフェスティバルはサルメデの地元のボランティアの人たちがたくさん協力していて、ブックショップでも売っている絵本の内容を説明する熱心なボランティアの人たちが働いていました。

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今年の作家30人展には移民をテーマとする絵本が5作品と、チリのイラストレーター、Francisca Yañezのインスタレーション作品が展示されました。移民たちは今でも毎日のように、命がけでイタリア、そしてヨーロパを目指して地中海を渡ろうとしています。途中で溺れてしまう大人たち、子どもたちも大勢います。今年は10万5千人の移民たちがイタリアに到着しました。ヨーロッパの他の国を目指す人が多いのですが、イタリアに残る人もたくさんいます。ローマの小学校では地域にょっては、移民の子どもたちの方が多い学校も増えて来ました。フランシスカさん一家は軍によるクーデター後にチリから亡命せねばならず、子どものときから家族とともに放浪生活を強いられていました。亡命する時に、一つの鞄の中に一つだけ持っていきたいものを入れていいと言われ、集めていたカードを持って行くことに決めたそうです。軍の監視する中、飛行機のタラップを登っていた時に鞄が開いてしまい、カードが全部風に飛ばされて落ちてしまいました。それを家族全員が階段を駆け下りてカードを必死に集めようとしている光景は心に焼き付けられ、一つの箱に収まるこの「個展」のアイディアにつながったということです。

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オレッキオ・アチェルボから刊行されたArmin Greder さんの"Mediterraneo"(「地中海」)。文字のないサイレントブックですが、ゴヤの作品のような凄まじさを持った絵が海を渡る移民たちの現状を告発します

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ザブレルさんはサルメデかた3キロ離れた山の上の村、Rugoloに住んでいました。その死後、愛するこの村の教会の墓地に葬られました。ザブレルさんもチェコの独裁制を逃れてイタリアにやってきた亡命者でした。彼が35年前、サルメデて初めて絵本原画展を始めた1980年代には、こどものための絵本に関する展覧会はボローニャの国際絵本原画展以外、あまりありませんでした。また、絵本のためのイラストレーションの学校もありませんでした。ザブレルさんの意思を継いだサルメデの人々は、子どもたちが夢を見続けられるようにと、一生懸命なのだということが心に伝わって来ました。


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ザブレルさんの描いたルーゴロの教会の扉です。


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ルーゴロの山道です。栗の木、ブナ、ヘーゼルの木が中心の森。紅葉がきれいでした。